ルルド・ヌヴェール巡礼の旅
 
マリア・フランシスカ 大森 多恵子 
2007年5月
 5月19日、エールフランス航空12時10分成田発の飛行機に母と乗り込みました。
ずっとずっと「いつか行きたい」と思っていたルルドへ出発です。「なかなかまとまった休みが取れない」、「ゴールデンウィークや夏季休暇の時期は費用が高くなる」の理由で実行できないままでしたが、勤続25周年の5日間のリフレッシュ休暇がルルド巡礼出発へと背中を押してくれました。
成田空港では旅行会社のニコラさんに搭乗手続き、預け荷物の手続きをお世話になりました。ニコラさんのお父様は日本人でお母様はフランス人です。そしてパリからはニコラさんのお兄様のシリルさんのお世話になりました。(ご両親と3人息子のご家族で長兄のシリルさんだけがパリ在住で他の方は東京在住だそうです)
現地時間の17時30分に到着したシャルルドゴール空港ではなかなか出て来ない母の車椅子のためエールフランス航空のお二人の係員が電話をしたり、どこかへ連絡に行ったりと動いて下さり、タクシーに乗るのか迎えがあるのかと聞いて、シリルさんと出会える所までスーツケースを押して一緒に付いてきて下さいました。皆様のご親切にこれからの旅の不安もなくなりました。
1日目はパリ泊。緊張と長時間の飛行でとても疲れましたし、機内食でお腹も一杯でしたので一歩もホテルから出ず、入浴の後すぐに寝てしまいました。
2日目の朝、目覚めるとどしゃぶりの雨。シリルさんの迎えでタクシーでモンパルナス駅へ。TGVでいよいよルルドへ向かいます。途中から雨も上がり、車窓からの景色は一面の麦畑や牧草地と森で、草を食む牛、寝そべる牛、山羊、そして集落の真ん中には必ず教会の尖塔が見え、「あー、フランスだー」と思いました。シリルさんの説明では農業と酪農は自給率100%で、有り余るほどだそうです。
ウトウトした後に窓を見ると外の景色が変わっています。葡萄畑が見え始めしばらくすると大きな河とその両岸に大きな建物が並ぶ都会に着きました。ボルドーです。河口近くなので河巾はとても広く水は濁っています。その後ポーを過ぎ、やがて雪の残るピレネー山脈が見え、線路の横は流れのはやい川です。ルルドが近いことを感じワクワクします。
もうすぐルルド到着というアナウンスで席を立ち、列車のドアが開くのももどかしいほどにドキドキしながら降りました。プラットホーム上には様々な巡礼のグループが降り立っています。私達はタクシーで宿泊先の「SOEURS DE L'AMOUR DE DIEU」(直訳=神の愛の姉妹達)という修道院(スペインの修道女会)へ。到着すると陽気なシスターの歓迎です。夕食までの間にベルナデッタが実家の破産後に暮らした「カショー」(「監獄」という意味で、当時の神父様がベルナデッタの家族のために、使われなくなっていた狭い独房を借り上げて下さり両親と4人の子供が暮らした所)、「ベルナデッタの生家」の元粉引き小屋を見て、いよいよ洞窟へ。途中で水を汲むところで手にすくい飲んでみました。まったく癖のない、おいしい水です。洞窟は行列でしたが、車椅子の人用に洞窟の前にゲートがあり、車椅子で近付くとサッと開けてくれます。並んでいる人たちも私達が行くと「前にどうぞ」とスペースを作って下さいます。水の湧き出している所を見て進み、岩から滲みだす水に触れ十字をきりました。そのまま川沿いを更に進み橋を渡り、不自由な身体の人用の十字架の道行きをたどりました。(十字架の道行きの山の坂道は車椅子では無理と日本を出るときから思っていましたので)そして来た道を戻り聖ピオ10世地下大聖堂に寄りました。大きいとは聞いていましたが、想像をはるかに超える大きさに圧倒されました。
帰りにローソク行列用のローソクを購入し夕食のため修道院へ戻りました。修道院なのでアルコールは出ないものと思っておりましたら、1グループごとにワインが1本。思わず「ラッキー」という声が心の中で響きました。夜8時40分に再度聖域へ行きましたが、既にたくさんの人たちがそれぞれの国、地域の旗のもとに集まっています。私達はイタリア国旗がひるがえる後ろから行列に参加しました。日ごろの複雑な思いは忘れてこの時ばかりは日の丸を持って来ればよかったと思いました。ローソクの火は国籍、グループを超えて分け合います。もうその時から感動がわいてきます。やがて行進が始まり、「あめのきさき」を歌いながら進みました。大勢の人が世界中から集まり心を一つにして歌い上げる「アベマリア、アベマリア」の大合唱は素晴らしいものでした。ロータリーを回ってロザリオ大聖堂の前に来ると、またも車椅子の人と付き添いの人はさっと前に連れ出され、私たちは前から3列目でした。最後にインドの女性の舞踊が捧げられ終了しました。シリルさんが「何度もルルドへ来ているがこんな前に来られたのは初めてだ。おばあちゃんのお蔭だね」と言って下さり、母も「車椅子を押してもらい世話をかけて悪いと思っているのに、そのような言葉を聞けてうれしい。私も役に立てることがあるのね」と、とても喜んでおりました。
ルルド2日目は初めに水浴場へ。ここでも車椅子は最優先です。椅子に座って待つ人々の前を水浴場入口へ真っすぐに入れて下さいました。カーテンを入ると、大勢のボランティアの方々が親切に導いて下さいます。あっと言う間の水浴でした。冷たい水なのにすぐに乾き、身体が芯の方から温かいのを感じます。
その後、無原罪の御宿り大聖堂、地下聖堂を巡礼し、ロザリオ大聖堂でのミサに参列。一番前に座りました。大体の流れは同じなのでわかりますが、聖書朗読はパウロがどうした?という感じで、福音朗読もお説教もとてもきれいなフランス語なのに所々の単語は聞き取れても内容は全く理解できませんでした。平和のあいさつは「LA PAIX DU SEIGNEUR」(ラ ぺ ドィュ セニョール)と握手を交わしますが、私は日本語で周囲の方々に「主の平和」と唱えました。海外でのミサ参列は初めての経験でしたが、「教会は一つ」「人の心も一つ」と実感でき、ついつい涙腺が緩みます。ご聖体はいつもより少し小ぶりで甘く感じました。(このミサの侍者兼先唱者の男性の声が素晴らしく、歌声は伸びやかで張りのあるものでした。シリルさんのお話では彼はとても有名でCDも出しているとのことです)
昼食は修道院です。フランスでは昼食がメインのようで量も多いですし、お昼でも食卓には赤ワインが一瓶つき、最後のデザートの前にチーズを食べます。パンとチーズ、ワインがあれば「それだけでもう何もいらない」という感じの私ですが、シリルさんがどんな方かまだよくわからないので「私はお酒が好きです」とは言いながら少し遠慮がちに飲んでいました。途中で彼も私と同じとわかり、「そうですよね」とワインは堂々とお代わり。彼の奥様はイスラム教なのだそうですが、お酒もたしなまれ、イスラム教の厳格過ぎる面は嫌いとおっしゃっているそうです。家庭にそれぞれの文化は持ち込んでも宗教は持ちこないことを結婚時に約束なさったそうで3人のお子様はカトリックにも興味もあるが、イスラム教のお祈りの仕方も知っているそうです。彼は子供たちに「正しいこと」をするようにとだけ教育していて、自分で宗教を選べばよいとのことです。彼自身もお父様の仏教の影響も受けていてカトリックの洗礼は12歳だったそうです。家庭では北枕にはしない(仏教)し、子供が小さい頃はベッドの下に水を入れたコップを置いていた(イスラム教ではこうすれば悪魔が水におぼれて子供につかないというのだそうです)とのこと。彼いわく、「こういうことは文化であって宗教ではないから」とのこと。インターナショナルなフランスの一面を見た思いです。彼の価値観はいたってシンプルで、知的で素敵な人です。きっと奥様も素敵な女性だろうと想像します。
ルルド3日目、パリへ戻る日。朝食後もう一度洞窟へ行こうと玄関を出ますと、お向かいの中学校の生徒さんのための交通整理の女性が、「もうすぐミサが始まるよ」と教えてくれましたので、修道院近くのベルナデッタが幼児洗礼を受けた教会でのミサに参列することにしました。昨日のミサとは違う素朴な味わいのあるミサでした。その後、再度洞窟を訪れ、何度も振り返りながらサンミシェル門へ。サンミシェル門では長く立ち止まりルルドへのお別れをしました。
旅行日程の5日目、ヌヴェールへの巡礼です。タクシーでリヨン駅へ。リヨン駅はパリで一番古い駅で映画にもよく登場します。有名な駅舎内2階のレストラン「LE TRAIN BLEU」(ル トラン ブルー=ブルートレイン)を下から見上げると窓から天井や壁の装飾の豪華さが少し見え、昔、ブルジョアの方々がバカンスで南仏方面へ向う折に列車に乗り込むまでの時間を優雅に過ごしたという雰囲気を想像することができました。
列車は平日のせいか空いていましたが、すごい揺れで、母がトイレに立つのに付き添うのもたいへんでした。たどり着くという感じです。母の手を取ってゆっくりボツボツ歩いていると周囲の方々が「大丈夫か」(たぶん、そう言っているのだと思います)と声をかけてくれます。列車の音でよく聞き取れません。トイレからの帰りには「すいているのだから、もうここに掛けていたら」と声をかけて下さる女性もいました。本当に皆さん、とても親切です。
サンジルダール修道院へ到着すると、入口にいたシスターが陽気に声をかけて下さり、「日本人ならヤスコを呼ぶから、待ってて」とのこと。その日本人のシスターヤスコの案内でまずは聖堂の聖ベルナデッタにお会いしました。写真で何度も拝見したお姿ですが、本当に眠っているとしか思えません。きれいなお姿でした。
ミサの始まる時間までベルナデッタが亡くなった病室で今は小聖堂になっている部屋へ。シスターは「私はここが大好き。一人で静かに祈りたい時はここへ来るのよ」とのことでした。床も天井も当時のままだそうです。聖ベルナデッタが歩いた同じ床を歩いているという感慨に包まれます。
そして聖堂へ戻りミサに参列。聖ベルナデッタに一番近い席に座りました。こちらでのミサではお年寄り(母よりはずっと若い)のグループから先生に引率されてきた子供たちと世代巾の広い参列者でした。聖書朗読は中年の女性で、とてもきれいなフランス語でしたが、やはり内容は理解できず、福音朗読もお説教も全くわかりませんでした。ミサ後にシスターヤスコが「『毎日のミサ』を持ってくればよかったのに。同じ内容なのよ」とのこと。「家にはあるのに」と、とても残念でした。
ミサ後、修道院で昼食。とてもおいしい食事でした。きゅうりも日本のより太いのに種の部分が少なく、歯ごたえもシャキシャキ、あっさりしたドレッシングで野菜のおいしさを味わいました。パエリヤは貝類、イカ、海老、鶏肉と盛りだくさんの具です。ワインもとてもおいしくて、シリルさんと「おいしいね」と言いながら、ほとんど1本あけてしまいました。食後はベルナデッタの資料展示館(最近リニューアルされたとのこと)へ行き、ベルナデッタがヌヴェールの修道院へ初めて来た時に持っていたカバンと傘を見ました。厚い布製の縞柄のカバンで、色合いがモダンで今でも持てそうな感じです。そしてご自分がルルドで体験なさった事柄を自筆で残されたものを見ましたが、とてもきれいな字でした。
その後、修道院の庭へ案内して下さり、「木いちごはまだ早いのよ。でもさくらんぼがそろそろ食べ頃」とのこと。木からもぎながら食べるさくらんぼは甘くて本当においしいです。シスターがおどけて「ほら、見て」とさくらんぼをイヤリングのように耳元でぶらさげて見せて下さいます。かわいい(失礼)、陽気なシスターです。庭を進んでいると日本でもルルドでも聞いたことのないかわいい鳥の鳴き声がします。母が「いらっしゃいませ、いらっしゃいませと歓迎してくれているんだわ」と言うと、シリルさんが笑いながら「商売上手な鳥だ」と言うので4人で爆笑でした。さらに奥の方へ進んだ隅に、ベルナデッタが「私がお会いした方に似ている」と言ってよく祈っていたというマリア像がありました。素朴でいて優しさがあふれた表情の無原罪のマリア様です。シスターの提案で「しあわせなかたマリア」を歌いました。あまり歌詞を覚えてなくてシスターについて歌うのが精一杯でした。それから初めにベルナデッタが葬られた聖ヨセフ小聖堂に行きました。きれいな並木道の先にあるかわいい聖堂です。その聖堂の祭壇の前の床に十字架が置かれていて、その下に埋葬されていたとのことです。
帰りにシスターヤスコに漢字でフルネームを教えて頂きました。フランスに来て10年、シスターになって40数年とのこと。お膝が痛いとのことでしたが、本当に明るく陽気でパワフルなシスターです。帰りの時間が迫り、シスターヤスコに見送られ修道院を後にしました。
帰りの列車はコンパートメントで私達3人だけの空間で過ごせました。映画やテレビで見たことがありますが初めての経験で、これもすごくうれしいことでした。
いよいよパリ最後の日を迎え、空港へ行くまでの間の時間に不思議のメダイ教会へ行きたいという希望に応えて下さり、立ち寄ることができました。こんな建物ばかりの中に本当に教会があるのだろうかと思うほどで、知らなければ通り過ぎてしまうような入口ですが、門を入ると左手にはマリア様への感謝のメッセージが壁一面にあり、また右手には信徒へのお知らせが貼ってあったりで、有名な奇跡の教会の一面と地域の教会という一面が同居しています。聖堂内は明るく金色とブルーの色が鮮やかです。平日の朝にもかかわらず、大勢の方々がお祈りに訪れていました。他から来た人ではなく地元の方々のようです。以前NHKテレビで「フランス人のカトリック離れ」というテーマの番組がありましたが、カトリック信者の少ない日本から来るとフランスでは生活に根付いている宗教なのだと実感します。名残惜しかったのですが時間が迫り、シャルルドゴール空港へと向いました。
今回の巡礼では私と一緒の日程をこなし、ミサも水浴も積極的だった92歳の母の頑張りに感動しました。再度母と二人、巡礼の機会に恵まれますようにと祈ります。そして、全行程一緒に付いて丁寧に説明して下さり、何度も往復したルルドの修道院と聖域の坂道で力強く母の車椅子を押して下さったシリルさんに感謝。シスターヤスコの元気あふれるやさしさに感謝。道路、列車、ホテル、空港で気遣って下さった多くの方々に感謝。そして、そして、その出会いの全てを準備下さった神様に深く感謝しながら筆をおきます。


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